カッパドキア
トルコを訪れた人が一度は立ち寄るのがカッパドキアである。この呼称は、ローマ時代の属州名カッパドキアに由来するが、現在では総称ギョレメ地区とされている。ギョレメ村を中心に半径50 ~ 70kmに及ぶこの地域は標高1200mに位置し、荒涼としたアナトリア高原の中心に広がる大奇岩地帯である。しかし,紀元前1500年頃までカッパドキアをはじめ、アナトリア中央部は内海であったと言われている。ネヴシェヒールの東方40km、アクサライの街のそばにある広大な塩湖トゥズ湖はそのなごりと言われている。
カッパドキア観光の基点となる町はネヴシェヒルである。首都アンカラから6時間かけてやって来た大型バスはこのネウシェヒルまでで、大奇岩地帯に向かう人はここでミニバスに乗り換えることになる。 ミニバスが無料なのは有り難い。カッパドキアはネウシェヒル、ウチヒサール、ギョレメ、ユルギュップを結ぶ道路を境に北と南に分けられる。北が大奇岩地帯であり、南には大地下都市が人々を待っている。
北から出かけよう。世界に例がないと言われる、大規模でさまざまに変化する地形は奇妙な突起を見せ、あるものは土筆のように、またあるものはきのこの形をした岩が連立している。他にもピラミッド型や円錐型、またねじれた粘土の塊といった形の山、尖塔の上に帽子のような石をのせた岩山など雑多な奇岩である。ギョレメの人が「妖精の煙突」と呼んでいる奇岩も見事と言う以外に言葉も出ない。ある旅行作家はこの奇岩地帯を称して「トルコのグランドキャニオン」と表現したが、この摩訶不思議な地形を見ていると、自然の力というにはあまりにも奇妙な、神様のいたずらかと思いたくなるような土地がこのカッパドキアの北の地なのである。 この自然の奇観に加えて更なる圧巻は、蜂の巣のように彫り込まれた岩窟の群である。カッパドキアがまだ人々によって「カバトウ力」と呼ばれていた青銅器時代、続くヒッタイト(へテ)時代、更にフリギア時代の昔からこの地方の人々は、岩をくり抜き居住としてきたのである。
AD17年にカッパドキアがローマに服属すると、使徒パウロがこの地方にキリスト教をもたらした。当時カッパドキアの中心はローマの皇帝アウグストゥスの名を冠した町カイセリアであった。
聖書（ペトロの手紙一１：１）によると、使徒ペトロから呼びかけられた中にカッパドキアも入っているので、キリスト教初期のころからこの地方にキリスト教徒がいたことがわかっている。２世紀にはカエサリアに信徒グループの存在の記録があるし、４世紀にはたくさんのキリスト教徒が住み着き、ニサのグレゴリウスのような有名な神学者や修道僧・尼僧も各地から集まってきた。そのころカイセリアのキリスト教のリーダー、バジルはカッパドキア中部のギョレメ谷に修道院を造り、布教につとめ、修道士たちは自分の力で岩を掘って教会や住居を作り、内部をフレスコ画で飾った。こうして1 4世紀にはカッパドキアのキリスト教生活共同体はギョレメを中心に大規模なものとなったのである。現在、野外博物館となっているところがその中心である。そこには1 5の教会、7つの食堂、沢山の貯蔵庫、ワイン室、埋葬室がある。野外博物館入口の向い側にはギリシャ十字の形に設計された11世紀の教会があり、内部にはキリストの肖像が残されている。一説ではこの巨岩群に365の教会があるといわれているが、現在公開されているのは、その内の 30教会であり、全て850年以降に造られたものである。
フレスコ画に描かれている題材は、キリストと母マリア、洗礼者ヨハネ、受胎告知、誕生、洗礼、変容、エルサレム入城、最後の晩餐、ユダの裏切り、復活、昇天などキリストの生涯に因んだもの、アブラハムなどの旧約聖書のシーン、聖人と呼ばれた人々、ローマにキリスト教を公認したコンスタンチヌス大帝とその母レナ等である。そして大抵の画の人物にはギリシャ語の略字で誰であるかわかるように説明がなされている。例えば、イエス・キリストはIC XC、母マリアはM P、ヨハネはI Wといった具合であり、キリストの左右には母マリアとヨハネが描かれている。使徒ペテロやパウロは対面にあり、遠ざけられるように描かれているのには何か理由があったのだろうか、それとも気になったのは筆者だけだろうか。
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