キリスト教あれこれ(5)

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チャリティー

 チャリティーが慈善を意味することは衆知のことである。そしてその歴史的起源は聖書に記されている「施し」にある。「慈善は命への確かな道」(箴言11:19)、「慈善を行う人は快く行いなさい」(ローマ人への手紙12:8)等々、枚挙にいとまがない。
 国語辞典では慈善の項に「めぐむこと、あわれみをかけること、貧困者を助けること」と記されているが、チャリティー(charity)は本来の意味に合致しているのであろうか。慈善を表す英語のチャリティーやグッドウィル(goodwill,好意・親切)は共にラテン語のカリタス(caritas)に由来し、その語源は「高価な」「愛すべき」という意味の形容詞カルス(carus)にある。そして聖書がラテン語に訳された時、キリスト教の愛を定義するギリシャ語アガペーにカリタスが当てられた。その関連でカリタスの英訳チャリティーは「愛、博愛、思いやり」に解された。後にこの語は隣人愛の実践としての慈善行為・活動を表すようになった。
 キリストの教えの根幹をなすものは隣人愛であり、特に必要とする人々への愛の具体的な行為は「善きサマリア人」のたとえ(ルカによる福音書10:25~37)で語られている。また最後の審判におけるキリストの言葉「わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは、わたしにしてくれたことなのである」(マタイによる福音書25:40)は隣人愛の重要性を示したものである。
 慈善活動の始まりは初代教会の助祭職にあるといわれているが、慈善行為はそれを行う者の魂の救済のための徳という面を持ち、その徳を重んじたローマカトリック教会では慈善をその徳目の一つと数え、中でもトマス・アクイナスは、慈善は隣人に対する徳の中でも最高のものとなした。中世になると慈善活動は個人からカトリック教会とその修道会が中心となり、中世の教会法では教会収入の四分の一は貧者の救済のために用いることが義務づけられた。これは近代における公的扶助の起源となった。
 しかし、この徳という考え方には貧富の差を肯定する思いがあったため、独善的になっていたことは否めない。現代の人権や連帯などに基づく福祉や社会正義のための活動はこの点の反省から出たものである。
 プロテスタント教会では、宗教改革者であったジャン・カルヴァンは中世ローマカトリック教会の徳と直結する慈善には批判的であったといわれている。伝道や信仰生活の重要な要素としての慈善活動を考えたプロテスタント教会は、慈善を徳よりも奉仕と結び付け、個人のものよりもキリスト教団体による活動を考えた。そして生まれたのが英国の慈善組織協会やYMCA・YWCA等であり、20世紀になると児童の救済事業へと進み、国際的視野に立つ活動となった。

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